BLの香りがするかもしれない駄文を添えて…

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自由と希望と絶望

 それは太陽が流す血なのだと言われれば
 カケラの疑問も抱く事なく信じてしまいそうな程の鮮血の夕陽
 そんな日は月も赤く大地を照らし出す
 自分の存在を誇示する為に
 そして太陽を追いかける
 自分はここに居るのだと
 お前がいなければ、自分は輝けないのだと
 そして手を指し伸ばすのだ
 お前がいるから、自分は輝いてしまうのだと


+++


 夕陽に色を奪われ佇む影と、輪郭を忘れ跪く影が、時を忘れ闇に溶け込もうとしていた。
 息づくモノは他にない。
 足元に散らばった残骸が先の戦闘の激しさを物語る。少し離れた所ではまだ幾筋かの煙が燻りを窺わせた。
瓦礫と、ほんの数分前まで動いていたモノと。元来の色を取り戻しつつある金茶色の眼が忌々しげにそれらを見回す。
 何時もの事と適当にあしらうつもりでいれば、余計な厄介事まで舞い込んできた。
 『戦闘を望む』という意味では、ソルにとってカイはギアと大差ない。
 苛立ちを隠すわけでもなく、ソルはどこか人に似たそれを踏み潰した。色の判別すら難しい黒い液体が足を汚す。
 舌を打ち、ソルは途方もない世界へと歩き出した。
「待てソル!」
 耳に響いた足音に、カイはその背中を振り仰ぎソルへと手を伸ばした。
 紡がれた自分の名に意味はないとでも言うようにソルは歩き続ける。
 答えなど返す気もない。いや、返す答えなど持ち合わせてはいない。
「待ってくれ!」
 待つわけも待てるわけもない。カイは何も判ってなどいないのだから。
 戦いはいつもの事だ。自分はその中でしか生きる事はできない。
それでも、戦いが終わった後尚も自分に戦いを求めるカイに答える気にはならない。
「……頼む」
 背後に掠れた声が響く。
 この青年は、また自分に戦えと希うのだろうか?
「…戦ってくれっ!…ソル…」
 カイの声にソルは足を止めた。『大人』としての譲歩だ。歩み寄りはしない。
「…いい加減にしろ、坊や」
 背を向けられたままの言葉にカイはどんな顔をしているのだろうか?
否、思い浮かべようとするまでもなくその表情は脳裏に浮ぶ。
きっとこの坊やは…
「ソル…私では……か?」
どんな顔をして良いのかも判らず、悲壮な顔を浮かべているに違いない。
 聞き逃した言葉よりも、それを確かめたい衝動に駆られソルは顔だけを向けた。
「あん?」
 想像通りの表情に満足し、ソルは眼を細めた。
 戦場でも穢れる事のない金髪が僅かに揺れている。それは風のせいばかりではないのだろう。
「私では…不服…なのか?」
 こちらを確かめるように面を上げる。
 その拍子に碧い眼から零れた涙が頬を伝い地面に沈んだ。
 自分が不甲斐無いとばかりに唇を噛み締めている。
「だから…私では…本気を出せないと…?」
 縋るように見つめてくるその瞳に、少なからず吐き気を覚えた。
「…そうだ、坊やの相手をしたって面白くもなんともねぇ」

――――殺してほしいのか?

 一番言いたい言葉を口の中に含め、だが仮に言った所でカイは引き下がらないだろうと気付きそれを止めた。
「…どうしたら良い?どうすれば…っ」
 追って縋る眼にソルは逃げを決めた。視線を沈み逝く夕陽へと向け再び歩きだす。

「てめぇで考えな…」

――――何を望む?
――――俺はお前の……じゃない

「ソルっ!」
 カイはソルの気など知りもせず両腕を広げて道なき道を塞いだ。
「退け」
 短く吐き捨て睨み付ける。
「っ…」
 カイが怯んだのはほんの一瞬で、睨み返すと封雷剣をソルに向け構えた。
ソルはそれに構えずに溜息で返した。

――――何を望む?

「どんな代償を払っても構わない…戦え!」
 カイは理を知らない幼子のように懇願する。
「…いい加減にしろ」
 胸の蟠りに促されるままに殺気を込めて睨み返した。
「ソル…っ!」
「子供はお家に帰る時間だ」
「何…」
 反論しようとする隙を与えずに吐き捨てる。
「代償なんて軽々しく言うんじゃねぇ、てめぇに払えるモンなんてたかが知れてんだよ」
「私は…」
「帰んな…お前の<家>に」
「……私は!!」
 それを否定するとばかりに声を張り上げるカイを避け、ソルは再び荒野へと歩き出した。
「…お前に勝たなくては意味がないんだっ!」
 背を向けたままカイが再び声を張り上げた。その声にソルは立ち止まる。
「勝たなければ…お前に勝たなければ……私は進めない…!」
 振り向くと、同様に振り向いたカイと目が合った。
「ヒトに理由を押し付けるな」
「理由など…」

「俺はお前の希望じゃねぇ」

 目を見開くカイは、酷く心を昂揚させた。